「がん治療時に生じる口内炎に対する、有効な治療法や予防法は存在しないと言っても過言ではない。
口内炎が重症化した場合には、摂食や会話が困難となり、患者のQOLを著しく低下させてしまうだけでなく、
潰瘍部から全身へ感染を波及させてしまうケースもあり、がん治療の遂行やがん患者の支援の障壁となることも少なくない。
現在行われているがん治療時の口内炎に対する支持療法は、感染制御と疼痛緩和を主体とした口腔内管理、いわゆる「口腔ケア」であり、
歯科との連携により口腔内を清潔に保ち、口腔内の感染源が除去されている。
その他、低出力レーザー治療、栄養療法、亜鉛投与、抗炎症薬投与が行われているものの、顕著な有効性や予防効果を発揮できるものは無く、
がん治療時の口内炎はアンメットメディカルニーズとなっている。
この口内炎の増悪因子の一つとして、唾液の減少が挙げられる。
すなわち、がん治療によるダメージから唾液腺を保護することが重要とされている。
原田教授は、アスパラギン酸、プロリン、アラニン及びこれらの塩から選択される2種以上のアミノ酸投与が、抗がん剤による唾液腺萎縮を
顕著に抑制可能であることを見出すとともに、これらが創傷治癒を促進可能であることを明らかにした。
抗がん剤による唾液腺萎縮は、食事療法や薬剤投与では制御困難であったが、上記アミノ酸投与によりがん治療によるダメージから唾液腺を保護し、
唾液減少を抑制することで、がん治療時に生じる口内炎に対する新たな治療戦略につながることが期待される。